秀808の平凡日誌

第蜂話 放歌


「ネビスよ、後必要な血の量はどのぐらいだ?」

 紅龍ゼグラムが、ネビスと言われた少女を背中に乗せ飛翔しながら、問う。

「まだ、大量の血を必要とするようです。」

「ふむ…ここからどっちに行くかお前が決めてみろ」

「…」

 何も感情を感じさせない表情と動作で、ネビスはまっすぐ北西を指差す。

「そうか、では行こう」

 そして彼等は、テントペンド平原/トワイライト滝付近へと飛んでいった。



 名も無い崩れた塔 最上部

 紅眼の白き龍…ルーツと、腹部を包帯で巻かれているスウォーム。

 そして見知らぬ1人の人間が向かい合っていた。

「…ヨクゾ来タ、新タナ同士達ヨ。我等ガ龍人族ノ末裔ヨ。」

 同士と呼ばれた龍人が、軽く頭を下げ、白き祖龍に言い放つ。

「光栄です。祖龍様、黒龍様。私の他に一人、セルフォルスと呼ばれる者もおります。今は用でここにはおりませんが、必ず祖龍様達の手助けとなるでしょう。祖龍様、黒龍様。私は祖龍様復活の祠になりましょう、私が世界を変えて見せましょう、世界を新たなる王、ルーツ様に。」

 一人の男が2頭の龍を崇めていた。

「我が名はクロード、祖龍様に一生の忠誠を誓います、あの子を守るために。」

 一人の男が歌を歌い、舞を舞った。

 クロードは歌う、祖龍、黒龍を前に、身を投げて、歌を歌った。

 雲から零れる光がクロードの漆黒の髪の毛を茶色に変色させたかのように、淡く光。

 クロードは重い口を開く、歌い出す、この世の全てを、この世の美しさと、この世に汚さに。

        「Tha World is not Beautiful。」

 我欲の果てに何を望む、争いの果てに何を見る。

 汚れる世界に我一人、理想の全てを失った、綺麗のお題目を唱えれずに、ただの綺麗事と化していく、言葉。

 世界は汚い、汚れている、 人は汚い、汚れている。

 欲望の果てに全てを手に入れ、争いの果てに勝利を描く、惨敗の末に死を望む。

 人は汚い、汚れて生きていく事しか知っていない、世界は汚れて行く、悲しみの断末魔を上げながら、汚れていく。

 でも世界は故に美しい、惨めに生きる者が美しい、這い蹲って生きる者が美しい。

 生きる為に生きている人が美しい、人の為に生きている人が素晴らしい。

 神は何の悪戯に争いを起こさせたのか、神は何の悪戯に人を生み出したのか。

 人は、生きて行くことを理由とする生き物である。

 死を望む者など居ない世界、争いを起こす、故に世界は美しい。

 神が人を産んだのは争う為では無く、生きていくために人を産んだのだ。

「セレナ……。」




「なんだ?この歌は?」

 クロードの歌は、遠く離れたネビスと紅龍にも聞こえていた。

 聞こえていた、というより、祖龍の力で、術者本人の聞いている音、声を全て対象に全く同じように聞こえさせる術なのだが。

「クロード…という奴の歌か…?…実に心地いい」

 しばし目をつぶると、紅龍はネビスに問う。

「ネビス、今回血はどの程度集まった?」

「紅龍様、今回は結構な血が集まったようです。私達の計画は着々と進んでおります、新たな同士達の御陰で祖龍様復活も近いですね。」

 一人の少女が紅龍と呼ばれている龍に話しかける、今日は雨だが紅龍が歩く場所だけまるで雨が避けるかのように、横へ避けていった。

 その近くには、大量のモンスターの死骸が見て取れる。

「セルフォルスとやらはどうした?クロードがスウォームに仕えるというなら、セルフォルスはどこにいる?」

 紅龍を雨が避けるのは、放たれている紅龍の熱気によるものだった、ジュゥっと音を立てて蒸発する雨、水蒸気がよりその場の霧を濃くした。

「ガープ様は今捜し物をしております、祖龍様復活の道具、グリモアを。」

「ネビス、なぜガープが探し物をしているとわかる?」

 ネビスが、顔にかかった血を近くの川で洗いながら答える。

「彼等には、私が進めておきました。祖龍様のお気に召すかは、わかりませんでしたが。」

 その言葉に「ふぅむ…」と頷く紅龍。

「血もある程度集まりましたし、後は私達が2000前成し得なかった、血の契約と、魂の契約と、祖龍様がお召しになる、最後の晩餐、8人の勇者を喰らえば、身体の契約も完成です。」

「我々は、祖龍様の糧となる、そして我等が主ルーツ様の真の復活を!!!」


 …彼等の、世界への「脅威」は、とどまることをしらなかった。


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